松浦寿輝という水先案内人を得て

(フレッシュアップコミュニケーション26年版より)

前学校長 渡辺 雅之

 松浦寿輝に初めて巡り会ったのは小論「かつて授業は『体験』であった」。「畏怖も尊敬も、現在の大学からは消えてしまった」ことに同意。昨今「教室は、小ぎれいにパッケージされた口当たりのよい知識を要領よく伝達する、能率的な教習会場如きもの」だ。プルースト「失われた時を求めて」第一巻から直ぐに挫折する始末。しかしひょんなことで鈴木道彦訳文庫版巻末で松浦のエッセイ「プルーストから吉田健一へ」に出会す。吉田健一とは誰ぞ。吉田茂元首相長男の意ではなく文人吉田健一のこと。エッセイのラストに「吉田健一は」プルーストの「『近代の完璧を求める方法』の内に胚胎されたシニシズムとニヒリズムの凄みに対しては十分に意識